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2025.02.25
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マーケティングとは何か

ビジネスの現場で頻繁に耳にする「マーケティング」という言葉。実はその背景には、これまで多くの学者や実務家の研究・実験・考察が積み重なり、今日の企業活動に欠かせない理論へと成長を遂げてきた経緯があります。今回の記事では、単なる「売るためのテクニック」にとどまらないマーケティングの奥深さを、学術的な視点や歴史的な背景を交えながらわかりやすく紹介していきます。顧客のニーズや社会との関わりなど、マーケティングの本質に迫るポイントを押さえつつ、BtoBやデジタル時代の最新動向にも触れますので、ぜひ最後までお付き合いください。

1. マーケティングとは何か?

「顧客ニーズ」から始まる価値創造のプロセス

マーケティングをひとことで言えば、顧客のニーズを起点に価値を創造し、それを届ける活動です。
1960年代にフィリップ・コトラー(Philip Kotler)が経済学から独立した形でマーケティングを体系化して以降、マーケティングは単なる「売るための技術」ではなく、企業の戦略的思考の中心として位置づけられるようになりました(Kotler, 1967)。企業が持続的に成長するためには、顧客への価値提供を軸に製品開発やプロモーションを行うことが不可欠であり、その全体設計こそがマーケティングの仕事だと考えられています。

「マーケティング・マイオピア」への警鐘

ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)に1960年に掲載されたセオドア・レビット(Theodore Levitt)の論文「マーケティング・マイオピア(Marketing Myopia)」では、企業が自社の製品を売ることに固執し、顧客の真のニーズを見失う危険性を指摘しています。マーケティングは、単なる製品志向ではなく、市場(マーケット)や顧客志向から出発すべきだという考え方を早期に示した重要な文献です。


2. マーケティングの定義を確認

AMA(アメリカ・マーケティング協会)の定義

学術的な文脈でよく引用されるのが、AMA(American Marketing Association)の定義です。現在の定義(2017年改訂版)では、マーケティングを以下のように示しています。

「マーケティングとは、顧客、クライアント、パートナー、および社会全体に対して価値を創造し、伝達し、提供し、交換するための活動、機関、プロセスの総体である」

ここから分かるように、マーケティングが目指すのは、企業や顧客だけでなく、社会全体にも価値をもたらす包括的な活動だとされています。

サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)の視点

近年注目される学術的アプローチに、「サービス・ドミナント・ロジック(Service-Dominant Logic)」という概念があります(Vargo & Lusch, 2004)。これは、あらゆる経済活動をサービスの交換として捉え、**企業と顧客が共同で価値を創造する(Value Co-creation)**ことを重視する考え方です。モノの売買を超えて、顧客と企業がコミュニケーションを通じて新たな付加価値を生み出すプロセスこそが、現代マーケティングの本質と位置づけられています。


3. マーケティングとセリングの違い

セリング:商品を「売る」プロセス

「セリング(Selling)」は、営業活動や販売行為そのものを意味します。これには、営業マンが顧客に直接アプローチして商談を進めるプロセスや、店舗での接客販売などが含まれます。

マーケティング:売れる「仕組み」を作る活動

一方のマーケティングは、セリングも含めたすべての活動を俯瞰して、顧客にとって魅力的なプロダクトやコミュニケーション設計を行うことに焦点を当てます。ピーター・ドラッカー(Peter F. Drucker)は、「マーケティングの理想はセリングを不要にすることである」と述べており(後述)、これは顧客自身が『欲しい』と思う状態を作ることの重要性を示唆しています。


4. マーケティングとは具体的に何をするのか

一般的なマーケティング業務

市場リサーチ

企業がマーケティング活動を行う上でまず行うべきは、**市場リサーチ(Market Research)**です。定量調査(アンケート)や定性調査(インタビュー、観察)、さらにはビッグデータの分析を通じて、顧客の潜在ニーズや競合他社の動向を把握します。

製品・サービス開発

次に、収集した情報を基に、顧客が「ぜひ使いたい」と感じる製品・サービスを設計します。ここで重要になるのが顧客視点差別化要素です。リソース・ベースド・ビュー(RBV)など戦略論の視点から、自社が持つ強みを活かして市場に独自の価値を提供することが、競合優位を獲得する鍵となります(Barney, 1991)。

コミュニケーション施策

広告、PR、SNS、展示会など、多様なチャネルを通じて製品の価値を顧客に伝えます。特にデジタル環境が進化した現代では、顧客ごとに最適化したメッセージ配信が重要です。マーケティング・オートメーション(MA)ツールを活用することで、一人ひとりの反応や行動データを基に、効果的なコミュニケーションを行えます。

効果測定とフィードバック

マーケティング活動は一度で完成するわけではありません。常に**PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)**を回し、得られたデータを基に施策を改善していきます。デジタル時代には、アクセス解析や広告効果測定のデータが容易に得られるため、継続的かつ迅速なフィードバックが可能となりました。


5. マーケティングで使われる代表的なフレームワーク

STP(Segmentation, Targeting, Positioning)

STPのフレームワーク
  1. セグメンテーション(Segmentation): 市場を細分化し、顧客をグループ分けする
  2. ターゲティング(Targeting): 自社が注力すべき特定のセグメントを選定する
  3. ポジショニング(Positioning): 競合と差別化された形で顧客にブランド価値を訴求する

STPは、マーケティング戦略を立てる上で極めて基本的かつ重要なプロセスです(Kotler & Keller, 2016)。

4P(Product, Price, Place, Promotion)

  1. Product(製品)
  2. Price(価格)
  3. Place(流通)
  4. Promotion(販促)

ジェローム・マッカーシー(E. Jerome McCarthy)が提唱した4P概念(1960年)は、マーケティングミックスの代表的なフレームワークとして広く活用されています。

購買ピラミッドとファネル理論

  • 購買ピラミッド: 「認知→興味→検討→比較→購入→リピート」という段階的なモデル
  • ファネル理論(Funnel Theory): 多くの見込み客が上層に入り、段階を経て最終的に少数の購入客に絞り込まれていくイメージを表す

BtoBマーケティングでは、複数の意思決定者が存在する購買プロセスを踏まえ、各段階で必要なコンテンツやコミュニケーション施策を用意することが成功の鍵となります(Webster & Wind, 1972)。


6. コトラーの「マーケティング1.0~5.0」にみる、マーケティングの歴史

フィリップ・コトラーによる段階的整理

現代マーケティングの父とも呼ばれるコトラーは、マーケティングの発展を以下のように整理しています。

  1. マーケティング1.0: 製品中心(大量生産・大量消費を背景)
  2. マーケティング2.0: 顧客中心(顧客ニーズと差別化が重要)
  3. マーケティング3.0: 価値観・社会的使命中心(企業の社会的責任やブランドのパーパスが重視)
  4. マーケティング4.0: デジタルとリアルの統合(オンライン・オフラインの融合)
  5. マーケティング5.0: AI・ロボティクスなど先端テクノロジーによる高度化(顧客データに基づく超個別化)

マーケティングは時代のテクノロジーや社会の要請によって変遷し、より顧客・社会との深い対話と価値共創を目指す方向へ進化してきたといえます(Kotler et al., 2021)。


7. マーケティングの始まり

大量生産・大量消費社会の到来

20世紀初頭、フォード式大量生産(1908年にT型フォード発売)などに代表される生産技術の進歩により、企業はこれまでにないペースで製品を市場に供給できるようになりました。一方、消費者の需要をいかに刺激し、いかに大規模に販売を行うかという問題が生じ、マーケティングの必要性が高まりました。

学問領域としての誕生

1920~30年代には、アメリカの大学でマーケティングが独立した学問領域として徐々に確立されていきます。マーケットリサーチや広告研究など、現在のマーケティング理論の土台がこの時代に形成され始めました。


8. コトラーの定義にそって歴史をたどる

製品志向から顧客志向へ

マーケティング1.0の時代は、主に「より多く・より安く製品を提供すること」に注力していました。しかし競合が増加して顧客の選択肢が広がると、差別化の必要性が高まり、マーケティング2.0のように「顧客を中心に据えた視点」へ移行していきます。

社会的価値の重視とデジタル化

環境問題や社会課題への意識が高まった現代社会では、企業が社会貢献やサステナビリティに取り組む意義が大きくなっており、マーケティング3.0として位置づけられます。さらにインターネットやスマートフォンの普及に伴い、消費者との接触点がオンラインに拡大(マーケティング4.0)。現在ではAIなど先端技術の導入が進み、顧客データの高度な分析と活用がマーケティング5.0のトレンドといえます。


9. 「マーケティングでセリングを不要にする」を唱えたドラッカー

ドラッカーの洞察

経営学者ピーター・ドラッカーは、マーケティングを「事業のあらゆる活動が顧客を意識し、最終的には『売る行為』自体を不要にするほど顧客の欲求と製品が合致する状態を作ること」と喝破しました。これは企業の顧客起点のあり方を端的に示した名言として知られます。

プル型マーケティングの重要性

プッシュ(押し込み)型のセリングではなく、顧客が自ら情報を得て購入したいと思うプル(引き寄せ)型の仕組みを作ることが、長期的な顧客ロイヤルティを育むカギです。デジタル時代には、SNSや検索エンジンなどから自然に集客できる体制を作り、顧客が必要なタイミングで必要な情報を得られる設計がより求められます。


10. 現代のBtoBマーケティングの特徴

複数の意思決定者と長い購買プロセス

BtoB(企業間取引)の場合、製品導入を判断する際に現場担当者、管理職、経営層など複数のステークホルダーが関わります(Webster & Wind, 1972)。導入検討から契約までに時間がかかるため、BtoCよりも長期的な施策・関係構築が必要となります。

専門的・技術的な情報が重視される

BtoBでは、導入製品の性能・コスト効果・ROI(投資対効果)など、定量的かつ専門性の高い情報が検討材料になります。単なる広告によるイメージ訴求だけでなく、ホワイトペーパー(技術・事例資料)やウェビナーによる知識提供など、顧客の意思決定をサポートするコンテンツが欠かせません。


11. 「デジタルマーケティング」がBtoBで重要な理由

オンラインでの情報収集が当たり前に

コロナ禍を経てオンライン商談やリモートワークが一般化し、BtoB企業の購買担当者もインターネットで情報を収集する行動が一層進んでいます。WebサイトやSNSでの発信内容が、初期の比較検討段階での「一次フィルター」として機能する場合も少なくありません。

マーケティング・オートメーションの活用

BtoBのデジタルマーケティングでは、マーケティング・オートメーション(MA)ツールが重宝されています。見込み客(リード)の行動をトラッキングし、スコアリングやメール配信を自動化することで、購買意欲の高い顧客を迅速に営業へつなげるなど、効率的なプロセス管理が可能になります。


12. 重要な施策を確実に実施するための年間活動計画を作成

長期的視点が求められるBtoB

BtoBマーケティングでは、単発のキャンペーンだけで成果をあげるのは困難です。購買サイクルが長い分、年間を通じた接点づくりが必要不可欠となります。

KGI・KPIの設定とロードマップ

計画を立てる際には、KGI(Key Goal Indicator)とKPI(Key Performance Indicator)を設定し、どのタイミングでどの施策を打ち、どれだけのリードを獲得するのかをマイルストーン化します。展示会出展、ウェビナー開催、ホワイトペーパーのリリース、SNS投稿など、一連の活動を体系的に繋げることで、施策ごとの成果を比較・改善しやすくなります。


13. 購買ピラミッドを使いフェーズごとに施策を整理

フェーズごとの顧客心理

購買ピラミッドは、一般的に以下のステップを示します。

フェーズごとの顧客心理
購買ピラミッドは、一般的に以下のステップを示します。 認知: まず製品やサービスの存在を知る 興味: 詳細を知りたいと思う 検討: 自社の課題に合うか比較しながら検討 比較: 他社製品との優劣を検討 購入: 最終的に購入(契約)を決定 リピート: 継続利用や追加導入
  1. 認知: まず製品やサービスの存在を知る
  2. 興味: 詳細を知りたいと思う
  3. 検討: 自社の課題に合うか比較しながら検討
  4. 比較: 他社製品との優劣を検討
  5. 購入: 最終的に購入(契約)を決定
  6. リピート: 継続利用や追加導入

タッチポイントの最適化

BtoBではこのプロセスが数カ月から1年以上かかることも珍しくありません。各フェーズで顧客が求める情報は異なるため、認知段階では簡潔な製品概要や導入事例、検討段階では詳細な仕様やコスト分析資料を提示するなど、適切なタッチポイントを整備する必要があります。これにより、顧客が検討しやすい環境を提供し、最終的な購買意欲を高めることが可能になります。


14. まとめ

マーケティングは、企業や顧客、さらには社会全体が互いに価値を交換し合う基盤であり、学術的にも多角的なアプローチが存在します。20世紀初頭の大量生産・大量消費社会から始まった近代マーケティングは、コトラーやドラッカー、レビットといった学者・実務家によって体系化・発展を遂げてきました。

  • ①顧客ニーズを出発点とする
  • ②差別化要素や自社の強みを明確化する
  • ③市場リサーチを継続して顧客インサイトを深める
  • ④コミュニケーション施策を多方面から実施し、効果を分析・改善する

これらの活動を総合的に行うことこそが、マーケティングの核心です。特にBtoB企業では、複雑な意思決定プロセスと長期的な関係構築が求められ、デジタル技術を駆使したマーケティングオートメーションや、購買ピラミッドを踏まえた段階的なアプローチが重要となります。

学問としてのマーケティングは、経済学、心理学、社会学、情報科学など幅広い領域と結びつきながら発展し続けています。現代ではAIなどの先端技術が加わり、顧客との価値共創の可能性はさらに広がりました。企業経営においてマーケティングを理解し、適切に活用することは、単に製品を売るためだけでなく、企業と顧客、社会全体が持続的に共存・発展していくための大きな武器となるでしょう。


参考文献(一部)

  • Barney, J. B. (1991). Firm Resources and Sustained Competitive Advantage. Journal of Management, 17(1), 99–120.
  • Kotler, P. (1967). Marketing Management. Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.
  • Kotler, P., & Keller, K. L. (2016). Marketing Management (15th ed.). Pearson.
  • Kotler, P., Kartajaya, H., & Setiawan, I. (2021). Marketing 5.0: Technology for Humanity. John Wiley & Sons.
  • Levitt, T. (1960). Marketing Myopia. Harvard Business Review, 38(4), 45–56.
  • McCarthy, E. J. (1960). Basic Marketing: A Managerial Approach. Homewood, IL: Richard D. Irwin.
  • Vargo, S. L., & Lusch, R. F. (2004). Evolving to a New Dominant Logic for Marketing. Journal of Marketing, 68(1), 1–17.
  • Webster, F. E., & Wind, Y. (1972). A General Model for Understanding Organizational Buying Behavior. Journal of Marketing, 36(2), 12–19.

こうした理論やフレームワークを参考に、ぜひ自社や組織のマーケティング活動に取り組んでみてください。学術的な知識と実務的な応用が組み合わさることで、より強固な競争優位性と長期的な顧客関係の構築が可能となります。